アメリカで学んだホスピタリティの本質。 「楽しませる」ことがすべての起点だった セントラルフロリダ大学での経験と、日米のホスピタリティ産業の根本的な違い

ホスピタリティとは何か

アメリカで学んだホスピタリティの本質。
「楽しませる」ことがすべての起点だった

セントラルフロリダ大学での経験と、日米のホスピタリティ産業の根本的な違い

常井 大輝(トコイ ヒロキ)

株式会社 Hospitality Bridge 代表 / ホテル・旅館コンサルタント

茨城県出身。高校卒業後に渡米し、カリフォルニア州立オレンジコーストカレッジを経て、セントラルフロリダ大学(UCF)ローゼンホスピタリティマネジメント学部を卒業しました。

在学中はディズニーワールドのお膝元、オーランドにあるホテルでインターンを経験。ハウスキーピング部門でスーパーバイザーまで昇格し、Employee of the Monthにも選ばれました。

帰国後はハイアットリージェンシー那覇沖縄、琉球ホテル&リゾート名城ビーチでレベニューマネジメントとセールスに従事。一休では開業後半年で全国1位を達成しました。

今回はその経験をもとに、アメリカで体感したホスピタリティの本質についてお伝えします。

ホスピタリティとサービスの本質的な違い

まず根本を押さえておきたい点があります。オックスフォード英語辞典の定義を見てください。

Service(サービス)

"This is how we treat you."
"The action of helping or doing work for someone."

受動的・機械的。マニュアル通りに「する」こと。

Hospitality(ホスピタリティ)

"Treat how you want to be treated."
"The friendly and generous reception and entertainment of guests, visitors, or strangers."

能動的・心に触れる。相手を楽しませること。聞く能力・話す力・理解力・読解力が求められる。

決定的な違いは「entertainment(楽しませること)」という言葉が入っていることです。ホスピタリティは単にサービスを提供することではなく、相手が楽しいと感じる瞬間をつくることです。

サービスとホスピタリティの違いを一言で

チェックインの手続きを正確にこなす → Service
「どちらからいらっしゃったんですか?日本は初めてですか?」と笑顔で話しかける → Hospitality

マニュアルの中心(Standard)にサービスがあり、
その外側に個々のスタッフのHospitalityがあふれ出てくる。
そのHospitalityこそが、ゲストの想像を上回る体験をつくる。

アメリカのホスピタリティを現場で体感して

セントラルフロリダ大学では、卒業単位の必須項目として3セメスター分のフルタイムインターンシップが設定されています。授業だけでなく、実際に現場に出て稼ぎながら学ぶ。これが米国のホスピタリティ教育の根本にあります。

私が選んだのはハウスキーピング部門でした。「清掃の仕事」と思われがちですが、ホテルの「商品」である客室を直接つくる根幹部門です。あえて最も体力的・精神的にきつい部署を選んだのは、ホテルの本質を現場から学びたかったからです。

オーランドのハウスキーピング現場で気づいたこと

フロリダのハウスキーピングスタッフは、ハイチやプエルトリコからの移民が多く、クレオール語(フランス語とスペイン語が混ざった言語)を話す方々でした。英語も通じにくい。文化も全く違う。こちらの考えを理解してもらうのに大変苦労しました。

しかしこの経験こそが、言語や文化を超えてコミュニケーションする力を鍛えてくれました。言葉が通じなくても、笑顔と誠実な姿勢で信頼は築ける。これはその後の仕事人生でずっと役立っています。

アメリカのホスピタリティが生み出すもの

アメリカは文化も人種もバックグラウンドも多様です。だからこそ、それぞれが持つ「Hospitality」も多様であり、それがサービスという枠組みの中でまとまっています。

いいホスピタリティを持つ人とは「接客されて楽しくなる人」

楽しくなること=ポジティブアフェクト(淡い感情)が生まれ、購買意欲・満足度が高まります。洋服屋で店員さんと気さくに話していると服を満足して買った、会話が弾まず見るだけで帰ってしまった----どちらの体験もあるはずです。

ゲストとスタッフの会話が多い

うまく話すことで購入意欲が高まるとも言われています。1人1人の接客を楽しんでいるスタッフに接客してもらうと、こちらまで楽しくなる。その連鎖がホスピタリティの本質です。

楽しませることで稼ぐ仕組み

チップ文化がある職種では、自分のゲストを楽しませることでチップをもらい稼ぐことに必死になります。楽しませないとチップが入らず給料が低い。これがスタッフのホスピタリティを磨き続ける仕組みになっています。

日本のホスピタリティの課題

日本のホスピタリティは世界トップレベルの丁寧さ・清潔さ・正確さを持っています。しかし現場で感じる課題もあります。

スタンダードを守ることが最優先になりすぎている

自ら率先してスタンダード以外のことをゲストのためにすると、「他のスタッフの負担が増える」「そこまでやらなくていい」と指摘されることがある。減点方式の評価のため、答えと違うことをするとマイナスになる。

結果として、独創性のない統一されたサービスは提供できるが、その一歩先の心に触れるようなホスピタリティ性は低くなる。世界との差はここにある。

ゲストとの会話が少ない

日本のレストランではゲストが呼ぶまでスタッフは来ない。食べ終わった頃にお皿だけ取りに来る。アメリカでは「Is everything OK?」「How's everything?」「I like your T-Shirts!」などスタッフから積極的に会話をしにくる。

アメリカでは会話が少ない・話さない=「興味がない」「理解しようとしていない」と判断される。これは学校の授業スタイルから染みついた文化的な違いでもあります。

日米の業界関係者の大きな意識の違い

おもてなし思考 vs 利益思考

日本のホスピタリティは「おもてなし」という言語でまとめられ認識されている傾向が強い。アメリカでもおもてなしはします。ただしそれには必ずそれなりの「対価」が発生します。

自宅でのおもてなしは利益を考えず楽しい時間を提供しますが、旅行は違います。ゲストはおもてなしという商品を買っているという意識が重要です。今後は「顧客満足度」と「対価獲得」のバランスを模索できる人材と経営陣が増えなければ、観光大国日本への道のりは遠いものとなります。

評価制度の確立と徹底

私が働いたホテルには「Employee of the Month」という表彰制度がありました。マネージャー以下600名超の中から月間MVPを選出。受賞者にはQUOカード・有給・グループホテル宿泊券が贈られ、年に一度全受賞者を集めたパーティも開かれます。

評価があることで優秀なスタッフは差別化され、マネージャーの評価は下からの評価も取り入れる。この仕組みが、スタッフのホスピタリティを磨き続ける文化をつくっています。

いいホスピタリティ性を磨くために

ホスピタリティは生まれ持ったものではなく、意識して磨くことができます。

[1] 自分に「余裕」が必要。幸せであれ。

金銭的・私生活での余裕がないと人を楽しませることはできません。もしくは人が喜んでいるのを見て幸せに思える共感性を育てること。

[2] 常に他人を理解しようとし続け、楽しませようとし、感覚を磨き続ける

ホスピタリティは聞く力・理解する力・共感する力・楽しませる力。感覚に近いものであるため、身近な人----友達・家族・恋人などが何を求めているかを把握するようにする。日常の中で磨き続けることが、仕事での接客に直結します。

ホスピタリティ性を磨くことはESにつながる

「楽しませる力」を磨くためには、スタッフ自身が満足して働いていることが前提になります。余裕のない人は人を楽しませることができない----これはアメリカの現場でも日本の現場でも同じでした。

ホスピタリティ性を組織として育てるためには、個人の努力だけでなく、スタッフが「ここで働いてよかった」と思える職場環境(ES)をつくることが不可欠です。ESとホスピタリティの関係については、以下の記事で詳しく解説しています。

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インバウンドが拡大する今、日本に必要なこと

インバウンド観光は日本の主軸外貨獲得手段になりつつあります。2030年には15兆円市場を目標とし、自動車の輸出予算(約10兆円)を超える規模です。しかし観光事業がうまくいかないと日本は厳しい状況になります。

日本の観光業界の課題は多い----人材不足・語学の壁・DXの遅延・サービスという概念のパラダイムシフト・オーバーツーリズム。しかし課題がたくさんあるということは、やるべきことがたくさんあり、成長できる、やりがいがあるということでもあります。

まとめ:
・Hospitalityとは「楽しませること」----entertainmentがその核心
・サービスはマニュアルの中心、ホスピタリティはその外側にあふれ出るもの
・アメリカでは「接客されて楽しくなる」スタッフが評価され、チップとして報われる
・日本はスタンダードを守る文化が強く、その一歩先のホスピタリティが弱い
・ゲストとの会話が少ないことが、日本のホスピタリティの最大の課題
・おもてなしを「商品」として捉え、対価とのバランスを意識することが重要
・ホスピタリティはどの業界・どの道に進んでも最高に役立つ力である

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常井 大輝(トコイ ヒロキ)|株式会社 Hospitality Bridge

セントラルフロリダ大学ローゼンホスピタリティマネジメント学部卒業。在学中にオーランドのホテルでインターンを経験しスーパーバイザー・Employee of the Monthを獲得。帰国後はハイアットリージェンシー那覇沖縄、琉球ホテル&リゾート名城ビーチでレベニューマネジメントに従事。2023年11月、株式会社Hospitality Bridgeを設立。

参考:Oxford English Dictionary「Service」「Hospitality」定義 / 千葉商科大学・立正大学・神奈川大学講演資料(株式会社Hospitality Bridge 常井大輝)

https://hospitalitybridgeconsulting.com/

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